うつし世は夢

没後40周年の締めに見る「乱歩地獄」。

乱歩地獄
http://www.rampojigoku.com/

わざわざ見に行ったくせに、本当は、もうちょっとつまらない感想を覚悟していた。「せいぜい"意味不明のB級大作"あたり、とか」ぐらいに。それは良い意味で裏切られた。

  • 火星の運河
    こんな光景が地球上に現実に存在するなんて! 絶対に火星じゃないと分かっていても、CGより凄いよ、アイスランド。無音なのも込みで、ちょいTarkovsky感じたりして。寒冷地という場所は、何か特有の意識を生み出すんだろうか?
  • 鏡地獄
    ウルトラマンの実相寺先生監督。どこまでも鏡を多用しているけれど、カメラが写り込まないようにという点には、あんまり気にしてなかったんですね、意外。成宮寛貴...うーん、微妙。和服のエロティシズムはやっぱりとてもナイスです。舌に垂らすろうそくは結構熱いと思うんだけどな。この「影取りの鏡」とやらは通販では売っていないんでしょうか?
  • 芋虫
    エグくて、血が出て、痛くて、神経系に来るヤツってダメなんだけど、その全部がてんこ盛り。乱歩作品の多くが戦争の暗い影の影響を強く受けているんだろうな。松田龍平の妖しい魅力が光ってる。Jennifer Lynchの「Boxing Helena」を思い出したり。

  • 極彩色の妄想が夢の世界へ誘う。全部通しで出ている浅野忠信は、明智小五郎よりも、この作品での主人公役が一番合っていた気がする。緒川たまきの魅力が分からない。貧乳を大目に見ても。「トリビアの泉」の「うそつき。」は決して嫌いではありませんが。


ここで描かれている内容が、乱歩作品を忠実に再現できているものなのかどうかは分からない。小中学生頃の怪人二十面相シリーズを中心に読んだっきり程度だし。

ただ、今月のオーケンのTV番組に続いて、この映画を観た後には全く眠れなくなってしまった。


歪んで倒錯した自己の世界観が招いている、厭世と孤立。
痛々しくどこまでも間違ったベクトルに向けられる実直さ、狂った距離感。
愛せないけど愛されたい、愛してるけど愛されない、身勝手で独りよがりな愛情。
あまりにも子供じみた残酷さと、息苦しくかつ狂おしい感情の起伏。
滑稽なほどのパラノイアと、永遠に続くパラドックス


主人公が抱え込んでいるそのいびつな側面全てが、自分にぴったり当てはまってしまう意識が、時間が経過するごとにどんどん自分の中で大きく膨張して、恐怖というよりも覚醒になってしまった。映画そのものとは直接関係ないところで、深くショックを受けてどうするョ。


だからこそ、TV番組で「ボクぁ、何て言うかなぁ、この主人公がカワイイんだよなぁ〜。」なんて、ほのぼの発言して理解してくれる(少なくとも、理解しようとしてくれている)オーケンの言葉に、一瞬の安らぎすら覚えてしまうんだ、きっと。


夜の夢こそまこと...そしてまた眠れない夜が来る。


乱歩―夜の夢こそまこと

乱歩―夜の夢こそまこと