ノンフィクションNOW

原作を読んだ時のことはもう忘れてしまったけれど、見終わった後のこの感覚。最悪に気分が悪くなる時に決まって襲われる。膝とアキレス腱から全ての力が抜けていくのと反対に、首の筋肉が異常に緊張する。映像表現の生々しさを改めて感じる。本当に病院に行く前なんかにこれを映画館で見なくて良かった。絶対にレバ刺しなんか病院で出さないでください。気晴らしにせっせと部屋の掃除をしながらじゃないととても正視できない。

海と毒薬 デラックス版 [DVD]

海と毒薬 デラックス版 [DVD]

九州帝國大学医学部を舞台にした、アメリカ軍捕虜を使った戦時中のおぞましい悪魔の実験。海水を代用血液にする研究、心臓や肺・肝臓の摘出。モノクロ映像なのに、手術シーンは卒倒寸前。手術シーンがカラーで出てくるCronenbergの「戦慄の絆(Dead Ringers)」なんか目じゃないね。もう、これ見ながら絶対にもつ鍋とか喰えないから。この場にもし自分が居たら、ぶっ倒れてまっ先に解剖されてる。

なぜ殺すのか?命とは? 戦時下、軍部に絶対服従の環境での諦めの中、良心の呵責に苦しむ勝呂に対して、戸田は「執着は迷いを生む。」と吐き捨てる。しかし彼もまた、無感覚な自分の内側に痛みを抱える。

この映画とは別に、実際の生存者の証言も見る。戦時の狂気の中にも、最先端医療技術者としての純粋な探求心や興味も語られる(鳥越さん、腕の組み方・脚の組み方・髪型、いつも全部変なんですけど…)。
http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/

このストーリーが作り物なんかじゃなくて、紛れもない歴史の事実だということを、一体どう捕らえればいいのかな。60数年前のこととはいえ、舞台が福岡だから出てくる地名やカメラアングルだって妙にナマっぽく感じる。象牙の塔を象徴するヒエラルキーにしたって、ただ表に出なくなっただけで、今も脈々と受け継がれているんだろうし。大体、この実験結果だって、細菌兵器の研究開発を行っていた石井731部隊のそれと同じで、巧妙にかの国に吸い上げられて行って、回り回って今、自分たちに使われるかもしれないことも容易に想像できる。昔々、こういう怖いことがありました、なんてお伽噺になり得ない暗い余韻が後を引く。

馬出の建物は、もう屋上から海を眺めたりできないんだろうな。それでも、今でも潮風が海から吹いてくる。